はるか昔に少女が
- 2009/11/17(Tue) -
          はるかな昔 まだヒトが言葉を持たなかった頃の ものがたり



          果実に気をとられた少女が 仲間とはぐれ 夜の草原にただひとり。

          獣の刻を知らせる月の出に   

          少女は 風が彼女の匂いを乗せぬ岩陰に身をひそめる。

          
          朝まで無事でいられれば 仲間がのろしをあげてくれるだろう。

          父が迎えに来るかもしれぬ。

          少女は かたわらに転がる小石を拾い上げ にぎりしめる。



          月は煌々 天に高く    風が獣の咆哮を 運ぶ。

          少女は東の空をみつめる。  待つのは太陽。

          身を守るは 手の中に握りしめる小石だけ。
 

          待てども 待てども 東の空は明るまず

          獣の気配ばかりが濃くなる闇に 耐えきれず

          少女は 小石で 大地を打つ。

          指先でなぞれば わずかに削れた痕。

          同じ場所を 再度 小石で打てば 痕も少しばかり確かになり。

  

          少女は 夜の不安におののきながら

          東の空に 自分の明日を待ちながら

          小さな石で 大地を刻む。

          それが 何の役にも立たないことを 知りながら

          なお そうせずには いられない。

          言葉にならない あふれる想いを 刻まずにはいられない。

          少女はその時 大地を刻みながら おのれの深くをも 刻んだのだ。

          生きる と 強い意志とともに。          

          


          だから わたしも  刻まずには いられない。

          腹を満たすことも黄金に変わることもない にも かかわらず。

          生きるために。

          言葉を。


          はるかな昔 少女が残した 遺伝子の傷痕に 触れながら。  


          
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