「おじいちゃんとぼく」
- 2009/05/09(Sat) -
(神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)   


  おじいちゃんとぼく 釣りに出かけた。 おじいちゃんが 釣り糸を海に投げ込みながら言った。

  「こうやって 海とつながるんだ」

  ぼくも釣り糸を投げ込み 海とつながる。 群青色の海に 赤い浮きがポコリと顔を出す。

  おじいちゃんの浮きとぼくの浮き 波にゆられてプカプカ。 

  見つめるうちに ぼくの体もプカプカ。 おじいちゃんの体もプカプカ。

  波がダボンと打ち寄せる。 ザザンと引く。 ぼくの心臓が ダボン ザザンと響きだす。

  「おじいちゃんの心臓も ダボン ザザンってなってる?」

  「ああ ダボン ザザンだ」

  ぼくの浮きが沈んだ。 糸を引き上げたら えさがなくなっていた。 ぼくは言った。

  「海って おもしろいね」

  おじいちゃんが答えた。

  「うん 海はいい」


  おじいちゃんとぼく 山の畑へ出かけた。 おじいちゃんは ナスをハサミで切り取る。

  ぼくは トマトを両手で包むようにして とる。
  
  「ナスもトマトも つやつやだね」 と ぼく。

  「誰かのほっぺといい勝負だ」 と おじいちゃん。
  
  いちごの苗を植えた。

  「楽しみだね」 と ぼく。

  「楽しいな」 と おじいちゃん。

  汗をいっぱい かいた。 おじいちゃんがみかんを二つ もいだ。 ひとつを ぼくにくれる。

  木かげに並んで座った。 風が吹いた。 木の匂い 土の匂い。

  「山とつながると 気持ちいいな」 と おじいちゃんが言った。

  「山とつながると おいしいね」 と ぼくは みかんを 食べた。

  
  おじいちゃんが 入院した。


  お腹の中に 悪いものができたって。

  悪いところ いっぱい 切り取ったって。

  おじいちゃんがお腹を切った日 ぼくはおじいちゃんに会えなかった。

  次の日 おじいちゃんが眠っている部屋に入った。 

  おじいちゃんの口から管が出ていた。 鼻からも腕からも お腹のあたりからも管が出ている。

  何本もの管で 薬や機械につながれていた。

  おじいちゃんは 目をかたく閉じている。 おでこに 目の周りに 口の横に

  怒った時のしわがある。 おじいちゃん 怒ってる。 こんなものに つながれたから。


  ぼくは一人で海ヘ行った。 ペットボトルに海を くんだ。 

  一人で山へ行った。 木によじ登り 一番おいしそうなみかんを もいだ。

  ペットボトルとみかんをかかえて 病院まで走った。 

  眠っているおじいちゃんの手を開いて ペットボトルの海をそそいだ。

  海をくんだはずなのに ペットボトルの中は にごった水。

  波の音も聞こえない。 水は 指の隙間から床へと流れ落ちた。 

  みかんの皮をむいて ひとふさ ひとふさ おじいちゃんの手のひらにのせた。

  おじいちゃんは 怒った顔で目を閉じたまま。 

  ひとふさ 食べてみた。 すっぱい。 みかんは バラバラと こぼれ散った。

   
  ママが来て みかんを拾い集め ぬれた床を拭いた。

  「どうして こんなこと するの?」 と ママは聞いた。

  「おじいちゃんを 好きなものとつないであげるの。 そしたら おじいちゃん 元気になるよ」

  ママは

  「ばかね」 って言った。

  「おじいちゃんの一番好きなもの ここにあるじゃない」

  そう言って 暖かな手で ぼくの髪を くしゃくしゃにした。


  おじいちゃんの手のひらに ぼくの手をのせた。

  おじいちゃんとぼく つながった。

  おじいちゃんの手 熱くて トクトクとリズムを刻む。

  ぼくの手も 熱くなって トクトク。

  おじいちゃんとぼく 体の中で 同じ音楽が響き始めた。

  おじいちゃんの手が ぼくの手を きゅっと にぎった。


                                              おわり

                                         そして resistance へ 続く 

                                       
                          
 

   
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