- 2009/05/24(Sun) -
                                    五臓六腑を焼くは  血色の焔

                                    吾子をつくりし血

                                    吾子に奪われし血

                                    切れぬ へその緒を 打つ


                                     焼きながら

                                     打ちながら

                                     足音を待つ




                                                                        
                                    
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「夏の空」
- 2009/05/21(Thu) -
                                    (神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)  


   時が 来た。

   じいちゃんは体から 抜け出た。 

   じいちゃんのぬけがらには 鼻に のどに 胸に お腹に 体中何本もの管がつながっている。

   さっきまで その管はじいちゃんに酸素や薬を 送っていた。

   (ふん そんなもん くそくらえだ)

   じいちゃんは 自由になった。


   
   ぬけがらは 焼かれ 乾いた骨になり 小さな白い袋に入れられた。

   孫のゆんが 言った。

   「もいちど じいちゃんと話したい」

   孫のけんたが 言った。

   「もいちど おじいちゃんと遊びたい」

   じいちゃんは むむ と口をとがらせた。 

   何度も ゆんに 話しかけている。 何度も けんたと 手をつなごうとした。

   なのに ゆんもけんたも じいちゃんが目に前にいることすら 気づかないのだ。

   じいちゃんの奥さん―ばあちゃんが 孫に答えた。

   「じいちゃんは そばにいるよ。 ばあちゃんにはわかる。
    ただ じいちゃんは不器用だからねぇ。
    どうやって 自分が居ることを ゆんやけんたに伝えたらいいか わからないのだろうねぇ」

   うーむ と じいちゃんは 腕を組む。

   「おじいちゃんは ユウレイになったばかりだもんね」 と けんた。

   「化けて出る練習してよ」 と ゆんが 白い包みに向かって 言った。

   じいちゃんは もう一度 うーむ と首をひねった。

             
   
    数日後 ゆんとけんたが けんかを始めた。
 
   「ユウレイは絶対 いる」 と けんた。

   「ママが 人は死んだら無になるって言ったわ」 と ゆん。

   ママというのは じいちゃんの娘のことだ。

   (ばか娘め)

   じいちゃんだって ここに居ると知らせたくて 努力している。

   霊力のありったけをしぼり 自分の骨をカタッと鳴らすことに成功した。

   (それを あのばか娘 ねずみが天井を走っている だと)

   ゆんが つづける。

   「じいちゃんがママに教えたんだって。 ユウレイなんか居ないって。」

   じいちゃんは 頭を抱えた。

   「おじいちゃんは 居るもんっ」 と けんた。

   「それなら なんで 会いにきてくれないの? 呼んでも 返事してくれないの?」

   叫んで ゆんは くちびるをかみ うつむいた。

   けんたは 顔を真っ赤にして まばたきをくりかえす。

   じいちゃんは 二人の肩を抱き 深々とためいきをついた。



   じいちゃんの骨が お墓に おさめられた。

   海辺の墓だ。 潮が匂う。 海鳴りが響く。

   「見えないけれど おじいちゃんは居るよ」 と けんた。

   「ぼく メダカやカメの世話 できたもん。 おじいちゃんが居るから やり方わかったの」

   じいちゃんは うなずく。 けんたの朝は じいちゃんの朝そっくりだ。

   窓をいっぱいに開けて 朝の空気を吸い込む。 朝顔の花を数える。

   それから メダカとカメの水槽をのぞく。

   ゆんが 言う。

   「じいちゃんからの手紙を読み直したの。 手紙の中に じいちゃんをみつけた」

   誕生日や入学式 折々に ゆんにおくった手紙。 じいちゃんは心をこめた。

   そうだ その手紙の中に じいちゃんはいるぞ。

   ゆんが ふっと 笑って

   「こっちも霊感が強くないとだめなんだよ。 ラジオの電波みたいにさ
    じいちゃんの波長とこっちの受信アンテナがピタッと合わないと 
    姿は見えないんだよ」
  
   じいちゃんも ふふふと 笑いがこみあげる。  霊感の無さも 遺伝かな。

   ゆん おまえの頭には ツムジが二つある。 じいちゃんのツムジも二つだ。

   けんたの顔の輪郭は じいちゃんとうりふたつだ。 

   いつか 鏡を見て 驚くさ。 じいちゃん そんなところに隠れていたの と。

   朝顔の花は 今年も種を残す。 

   その種をまく時 花が咲く時 じいちゃんと過ごした夏の匂いをかぐだろう。


   「夏の空だ」 と ゆんが 空を仰いだ。

   「おじいちゃんの好きな空だ」 と けんたも 空を仰ぐ。

   深く濃い青空。 じいちゃんが 何十回何百回と見上げてきた 空。

   何千回見上げても いい空だ。 南紀特有の夏の空。 まるで吸い込まれるような。

   気づくと じいちゃんは本当に空に引き寄せられていた。

   ゆんとけんたの姿が 下方に遠のいていく。 ふたりは じいちゃんを見上げている。

   グッドバイ? いや
 
   ”See you again”

   じいちゃんは 夏の空に 染まっていった。

                                                      完



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「resistance」 
- 2009/05/17(Sun) -
                                     (神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)    

   ゆんは ふくれてじいちゃんを にらんだ。

   じいちゃんは ベッドの上でそっぽを向き のど元の人工呼吸器の管をにぎる。

   呼吸器は シュウ・ストーン シュウ・ストーンと 正確にリズムを刻む。

   それに合わせて じいちゃんの胸が上下している。肩には点滴の管 鼻には薬注入の管。

   じいちゃんは 入院して三ヶ月 なにをかくそう 管引っこ抜きの常習犯なのだ。

   
   ゆんは この四月に中学生になったばかり。学校帰りに毎日 病院に寄る。

   さっき看護婦が 今日は二度管を抜いた と 教えてくれた。

   ため息つきながら病室のドアを開けたら じいちゃんがのど元の管をにぎっていた。

   「また抜く気なの?」 と 手を管からはずそうとしたら 邪険に払われた。

   「だめだったら」 と もう一度手を伸ばしたら その手をパチンっと叩かれた。

   
   それで ゆんはふくれているのだ。

   じいちゃんはのどを切開して管を入れているので 声が出ない。

   ゆんは カバンからノートとペンを取り出す。

   ”どうして管を抜くの!?” と 大きく書いて じいちゃんにノートをおしつけた。

   じいちゃんが 返事を書く。 ”resistance"

   じいちゃんは 元中学校英語教師。 なにかと ゆんに 英語で挑戦する。

   どうだわかるか という目で ゆんをジロリと見上げた。
   
   「ふんっ これくらいわかるわよ。 あたし 帰るっ」

   実はわからない。 腹が立つ。 ドアを乱暴に閉めて ローカに出る。

   バンッという音に 詰め所の看護婦が顔をのぞかせる。 ゆんをみとめて ニッと笑った。

   ゆんは 首をすくめて舌をだした。 またやっちゃった。 毎回 これだ。

   がんこじじいと その血を受け継いでいるゆん。 

   けんかしては ゆんが大声出したり じいちゃんがナースコールを連打したり・・・。
   
   ゆんは 「病棟名物 ジジ孫げんか」 と おどけてみせ 三階分の階段を一気に駆け下りた。

   病院から外へ出ると 風が冷たく感じる。

   ゆんは まだ体になじんでいない制服のえりもとを 合わせた。

   風に背を押されるまま 近くの神社へ行く。 

   境内に ゆんとじいちゃんが ”トトロの木”と名づけた大木がある。

   大木には 大きなうろが開いている。 ゆんは 木に腕を回し おでこをつけた。

   「早く 人工呼吸器が はずせますように」

   それから あたりを見回し 誰もいないことを確かめ うろの中へ入った。

   ひざを抱え 丸くなる。 だいぶ狭くなったけれど 居心地のよい ゆんの隠れ家。

   ほの暗く しめった木の匂い。 目を閉じると 静かな木の呼吸がゆんを包んだ。

   ゆんは 怖かった。 じいちゃんは なぜ管を抜く? 死にたいから?

   起き上がることも 食べることもできず 痛くて苦しい三ヶ月。

   なのに もっとがんばれって言うゆんは ひどい? ゆんは じいちゃんを苦しめている?

                              
 
    どのくらいたったか 大きく息を吐き出し 目を開けた。 ほおをぬぐう。

   カバンから英和辞典を 引っぱり出す。

   ”resistance 抵抗・反抗”  

   抵抗? 何に? 

   最初に管を引き抜いたのは・・・

   呼吸器を嫌がるじいちゃんをおとなしくさせようと 眠り薬を投薬した後。

   もうろうとしながら管を引き抜き ガッツポーズをしてみせたっけ。

   その次は じいちゃんに何の説明もなく 呼吸器の設定を変えた時。

   それから・・・。 

   ゆんの中で ゆっくり ほどけるものがある。

   治療といいながら じいちゃんの意志は何度も無視されてきた。

   声を失ったじいちゃんは 管を抜くことで 抗議してたんだ。

   命がけの resistance めちゃくちゃだけど なんて じいちゃんらしい。

   管を にぎる じいちゃん。 

   にぎっているのは じいちゃん自身の生死の権利。 これはオレの命だ と。

 
   ゆんは うろから出ると もう一度木に抱きついた。 そして 病院へと歩き出した。

   病室のドアを開け 「ハーイ」 と 右手をあげる。 

   じいちゃんも片手をあげ あいさつをかえす。

   ベッドが 四十度ほどの角度で起こしてある。

   じいちゃんは ベッドに背をもたせかけ 座っている。

   ゆんは 三歩で歩み寄ると 何本かの管ごと じいちゃんを抱きしめた。

   押さえつけられた管がはずれ ピーピーッと 警告音が鳴り響いた。

   ゆんの心臓は はねあがったけれど 慣れっこの看護婦は笑顔であらわれ

   あわてずさわがず 管を消毒して再挿入した。

   「今日はこれで三度目ね」 という看護婦の言葉に

   じいちゃんが ニヤリと ゆんを見た。




                                             おわり

                                        そして 夏の空 へ
     

  

                          


    
   
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「おじいちゃんとぼく」
- 2009/05/09(Sat) -
(神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)   


  おじいちゃんとぼく 釣りに出かけた。 おじいちゃんが 釣り糸を海に投げ込みながら言った。

  「こうやって 海とつながるんだ」

  ぼくも釣り糸を投げ込み 海とつながる。 群青色の海に 赤い浮きがポコリと顔を出す。

  おじいちゃんの浮きとぼくの浮き 波にゆられてプカプカ。 

  見つめるうちに ぼくの体もプカプカ。 おじいちゃんの体もプカプカ。

  波がダボンと打ち寄せる。 ザザンと引く。 ぼくの心臓が ダボン ザザンと響きだす。

  「おじいちゃんの心臓も ダボン ザザンってなってる?」

  「ああ ダボン ザザンだ」

  ぼくの浮きが沈んだ。 糸を引き上げたら えさがなくなっていた。 ぼくは言った。

  「海って おもしろいね」

  おじいちゃんが答えた。

  「うん 海はいい」


  おじいちゃんとぼく 山の畑へ出かけた。 おじいちゃんは ナスをハサミで切り取る。

  ぼくは トマトを両手で包むようにして とる。
  
  「ナスもトマトも つやつやだね」 と ぼく。

  「誰かのほっぺといい勝負だ」 と おじいちゃん。
  
  いちごの苗を植えた。

  「楽しみだね」 と ぼく。

  「楽しいな」 と おじいちゃん。

  汗をいっぱい かいた。 おじいちゃんがみかんを二つ もいだ。 ひとつを ぼくにくれる。

  木かげに並んで座った。 風が吹いた。 木の匂い 土の匂い。

  「山とつながると 気持ちいいな」 と おじいちゃんが言った。

  「山とつながると おいしいね」 と ぼくは みかんを 食べた。

  
  おじいちゃんが 入院した。


  お腹の中に 悪いものができたって。

  悪いところ いっぱい 切り取ったって。

  おじいちゃんがお腹を切った日 ぼくはおじいちゃんに会えなかった。

  次の日 おじいちゃんが眠っている部屋に入った。 

  おじいちゃんの口から管が出ていた。 鼻からも腕からも お腹のあたりからも管が出ている。

  何本もの管で 薬や機械につながれていた。

  おじいちゃんは 目をかたく閉じている。 おでこに 目の周りに 口の横に

  怒った時のしわがある。 おじいちゃん 怒ってる。 こんなものに つながれたから。


  ぼくは一人で海ヘ行った。 ペットボトルに海を くんだ。 

  一人で山へ行った。 木によじ登り 一番おいしそうなみかんを もいだ。

  ペットボトルとみかんをかかえて 病院まで走った。 

  眠っているおじいちゃんの手を開いて ペットボトルの海をそそいだ。

  海をくんだはずなのに ペットボトルの中は にごった水。

  波の音も聞こえない。 水は 指の隙間から床へと流れ落ちた。 

  みかんの皮をむいて ひとふさ ひとふさ おじいちゃんの手のひらにのせた。

  おじいちゃんは 怒った顔で目を閉じたまま。 

  ひとふさ 食べてみた。 すっぱい。 みかんは バラバラと こぼれ散った。

   
  ママが来て みかんを拾い集め ぬれた床を拭いた。

  「どうして こんなこと するの?」 と ママは聞いた。

  「おじいちゃんを 好きなものとつないであげるの。 そしたら おじいちゃん 元気になるよ」

  ママは

  「ばかね」 って言った。

  「おじいちゃんの一番好きなもの ここにあるじゃない」

  そう言って 暖かな手で ぼくの髪を くしゃくしゃにした。


  おじいちゃんの手のひらに ぼくの手をのせた。

  おじいちゃんとぼく つながった。

  おじいちゃんの手 熱くて トクトクとリズムを刻む。

  ぼくの手も 熱くなって トクトク。

  おじいちゃんとぼく 体の中で 同じ音楽が響き始めた。

  おじいちゃんの手が ぼくの手を きゅっと にぎった。


                                              おわり

                                         そして resistance へ 続く 

                                       
                          
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耕す 
- 2009/05/07(Thu) -
                                     ずっと 先の いつか 

                                     見届けられぬ未来に

                                     誰かを救う かもしれぬ 一粒の種


                                     その種のために 

                                     クワ打ち 土掘り起こし

                                     いのち 息づけるように

                                     
                                     ずっと むかしの いつか

                                     そうしてくれた人がいたように

                                     見えぬものを 想い つなぐ

                                     

                                    
                                     

                                     

                                     
                                     

                                     

                                                                                 
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五月三日
- 2009/05/03(Sun) -
                                 五月三日は 毎年 祝日 

                                    ずっと 記念日

                                     すごいじゃん   


                           090502_1150~01


                             がんばりやさん  今日くらいは脱力して 

                                ご?ろごろ  の?んびり と 

                                        ね

                                         
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