「バトン」
- 2009/06/17(Wed) -
                              (神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年…か2001?)   
 

  12才の誕生日の朝。

  ママが鏡台の引き出しから 櫛を取り出した。

  半月形の櫛は 磨きこんだように つやつやしている。

  「プレゼントよ。 ゆんのひいおばあちゃんが使っていた つげの櫛。 おばあちゃんもママも 使ったの」 
   
   と ママ。

  「ゲームソフトの方がいい」 と あたし。

  「ケータイ電話を買ってあげたでしょ」

  「ママが仕事を始めるからって ママの都合で買ったんじゃん」

  「新曲をダウンロードしたのは ゆんよ。 友達とメールしてるのも ゆん。 料金払うのは 誰?」 

   ・・・ママの勝ち。

  「お誕生日おめでとう。櫛 大切にしてね」

  ママはにっこり笑うと 仕事に出かけた。

  あたしも急がないと遅刻。 ランドセルに教科書をつめこみ 奥にケータイを隠す。

  「櫛を忘れるでないぞ」 

  という声に あたしは飛び上がった。

  見知らぬ老婆が 目の前にいた。 老婆はおごそかに

  「我は 櫛のつくも神」

   と 告げた後 ニッと笑って 言った。

  「古い道具にゃ つくも神がついているって ふみちゃんに教わったろ?」

  ふみちゃん? おばあちゃんの名だ。

  「櫛を入れて。 ランドセルを背負って」

  つくも神は あたしをせかして外へ出ると 気持ちよさそうに伸びをした。

  「かなちゃんは長いこと 櫛を鏡台にしまいっぱなしだったねぇ」
  
  「ママのこと? ママも つくも神さんに会ったの?」

  「ママが こどもの頃にね」

  と つくも神が 水たまりを指した。
  
  すると 水たまりの中に 女の子があらわれた。

  あの櫛で 前髪をかきあげている。 これ ママ? 生意気そうな子。

  つくも神が 道沿いのショーウィンドーをなでると  おかっぱ頭の女の子が そこに映った。

  櫛を そっと 拭いている。

  「ふみちゃんさ」 と つくも神。

  おばあちゃん?  かわいいっ。

  「ひいおばあちゃんは?」

  つくも神が 路上駐車のサイドミラーを つついた。

  ミラーの中に 赤い着物の女の子。  髪に挿した櫛が よく似合っている。

  はじめまして ひいおばあちゃん。

  あちこちに映る 櫛の思い出を追いながら 学校に着いた。

  学校の大鏡の中に 若いママがいた。 赤ん坊を抱いている。 となりに おばあちゃん。

  肩越しに赤ん坊をのぞいているのは きっと ひいおばあちゃん。

  3人の よく似た やさしい顔。

  3人は なにか目に見えない すてきなもので つながっている。


  大切な櫛。 

  なのに あたし いつものくせで ランドセルを乱暴に机に放り出した。
        

  パキッ。

  かすかな音だった。
 
  けど 体が冷たくなった。 頭がジンジン しびれた。

  こわばった指で ランドセルを開けた。

  教科書とケータイの間で 櫛はふたつに割れていた。

  あたしは 櫛をつかんで 大鏡の前に走った。

  「つくも神さんっ」 と 叫んだ。

  「ひいおばあちゃんっ」 と 呼んだ。

  誰の返事も 聞こえない。 鏡の中には 青ざめたあたしだけ。

  それも 涙で見えなくなって・・・後は覚えていない。

  
  気がついたら 割れた櫛を抱きしめて 家の自分のベッドで丸くなっていた。

  真っ暗だから 多分 夜。

  さっき ママが おやすみなさいって言ってたような気がする。

  どこかで 聞き覚えのあるメロディが 繰り返し鳴っている。

  ケータイの着メロだ。 うるさいなぁ 放っといて。

  鳴り止まない。

  あたしは ノロノロと起き上がり ケータイをつかんだ。
 
  明るい声が 流れてきた。

  「やっと泣き止んだ? アタシ ケータイのつくも神。 

    こんな新しい道具につくなんて コケンにかかわるんだけれどね。
 
    櫛のつくも神に免じて 99年分 貸しにしとくわ」

  「櫛のつくも神さんは?」 あたしの声 消え入りそう。

  「アタシをケータイに産み落として 自然消滅 世代交代。

   また 泣くの?

   櫛のつくも神から 伝言を預かったわ。 いい? 」

  あたしはあわてて涙をふき ケータイを握り直した。

  「『ゆんが渡されたバトンは櫛じゃない。 もっと確かで素敵なものを受け取ったんだよ』 だって」

  「どういうこと?」

  「自分で考えなよ。 それよりこの着メロ ダサイ。 別の曲 探してくるわ」

  電話は そこで切れた。


  泣くのは止めて もう眠ろう。

  そして明日 元気な心でバトンの意味を考えよう。

  櫛 元通りにはならないけれど・・・ 直してみよう。

     
     ところで つくも神のケータイ使用料は 誰が支払うのだろう・・・?

  
                                                   (おしまい)
   
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「夏の空」
- 2009/05/21(Thu) -
                                    (神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)  


   時が 来た。

   じいちゃんは体から 抜け出た。 

   じいちゃんのぬけがらには 鼻に のどに 胸に お腹に 体中何本もの管がつながっている。

   さっきまで その管はじいちゃんに酸素や薬を 送っていた。

   (ふん そんなもん くそくらえだ)

   じいちゃんは 自由になった。


   
   ぬけがらは 焼かれ 乾いた骨になり 小さな白い袋に入れられた。

   孫のゆんが 言った。

   「もいちど じいちゃんと話したい」

   孫のけんたが 言った。

   「もいちど おじいちゃんと遊びたい」

   じいちゃんは むむ と口をとがらせた。 

   何度も ゆんに 話しかけている。 何度も けんたと 手をつなごうとした。

   なのに ゆんもけんたも じいちゃんが目に前にいることすら 気づかないのだ。

   じいちゃんの奥さん―ばあちゃんが 孫に答えた。

   「じいちゃんは そばにいるよ。 ばあちゃんにはわかる。
    ただ じいちゃんは不器用だからねぇ。
    どうやって 自分が居ることを ゆんやけんたに伝えたらいいか わからないのだろうねぇ」

   うーむ と じいちゃんは 腕を組む。

   「おじいちゃんは ユウレイになったばかりだもんね」 と けんた。

   「化けて出る練習してよ」 と ゆんが 白い包みに向かって 言った。

   じいちゃんは もう一度 うーむ と首をひねった。

             
   
    数日後 ゆんとけんたが けんかを始めた。
 
   「ユウレイは絶対 いる」 と けんた。

   「ママが 人は死んだら無になるって言ったわ」 と ゆん。

   ママというのは じいちゃんの娘のことだ。

   (ばか娘め)

   じいちゃんだって ここに居ると知らせたくて 努力している。

   霊力のありったけをしぼり 自分の骨をカタッと鳴らすことに成功した。

   (それを あのばか娘 ねずみが天井を走っている だと)

   ゆんが つづける。

   「じいちゃんがママに教えたんだって。 ユウレイなんか居ないって。」

   じいちゃんは 頭を抱えた。

   「おじいちゃんは 居るもんっ」 と けんた。

   「それなら なんで 会いにきてくれないの? 呼んでも 返事してくれないの?」

   叫んで ゆんは くちびるをかみ うつむいた。

   けんたは 顔を真っ赤にして まばたきをくりかえす。

   じいちゃんは 二人の肩を抱き 深々とためいきをついた。



   じいちゃんの骨が お墓に おさめられた。

   海辺の墓だ。 潮が匂う。 海鳴りが響く。

   「見えないけれど おじいちゃんは居るよ」 と けんた。

   「ぼく メダカやカメの世話 できたもん。 おじいちゃんが居るから やり方わかったの」

   じいちゃんは うなずく。 けんたの朝は じいちゃんの朝そっくりだ。

   窓をいっぱいに開けて 朝の空気を吸い込む。 朝顔の花を数える。

   それから メダカとカメの水槽をのぞく。

   ゆんが 言う。

   「じいちゃんからの手紙を読み直したの。 手紙の中に じいちゃんをみつけた」

   誕生日や入学式 折々に ゆんにおくった手紙。 じいちゃんは心をこめた。

   そうだ その手紙の中に じいちゃんはいるぞ。

   ゆんが ふっと 笑って

   「こっちも霊感が強くないとだめなんだよ。 ラジオの電波みたいにさ
    じいちゃんの波長とこっちの受信アンテナがピタッと合わないと 
    姿は見えないんだよ」
  
   じいちゃんも ふふふと 笑いがこみあげる。  霊感の無さも 遺伝かな。

   ゆん おまえの頭には ツムジが二つある。 じいちゃんのツムジも二つだ。

   けんたの顔の輪郭は じいちゃんとうりふたつだ。 

   いつか 鏡を見て 驚くさ。 じいちゃん そんなところに隠れていたの と。

   朝顔の花は 今年も種を残す。 

   その種をまく時 花が咲く時 じいちゃんと過ごした夏の匂いをかぐだろう。


   「夏の空だ」 と ゆんが 空を仰いだ。

   「おじいちゃんの好きな空だ」 と けんたも 空を仰ぐ。

   深く濃い青空。 じいちゃんが 何十回何百回と見上げてきた 空。

   何千回見上げても いい空だ。 南紀特有の夏の空。 まるで吸い込まれるような。

   気づくと じいちゃんは本当に空に引き寄せられていた。

   ゆんとけんたの姿が 下方に遠のいていく。 ふたりは じいちゃんを見上げている。

   グッドバイ? いや
 
   ”See you again”

   じいちゃんは 夏の空に 染まっていった。

                                                      完



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「resistance」 
- 2009/05/17(Sun) -
                                     (神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)    

   ゆんは ふくれてじいちゃんを にらんだ。

   じいちゃんは ベッドの上でそっぽを向き のど元の人工呼吸器の管をにぎる。

   呼吸器は シュウ・ストーン シュウ・ストーンと 正確にリズムを刻む。

   それに合わせて じいちゃんの胸が上下している。肩には点滴の管 鼻には薬注入の管。

   じいちゃんは 入院して三ヶ月 なにをかくそう 管引っこ抜きの常習犯なのだ。

   
   ゆんは この四月に中学生になったばかり。学校帰りに毎日 病院に寄る。

   さっき看護婦が 今日は二度管を抜いた と 教えてくれた。

   ため息つきながら病室のドアを開けたら じいちゃんがのど元の管をにぎっていた。

   「また抜く気なの?」 と 手を管からはずそうとしたら 邪険に払われた。

   「だめだったら」 と もう一度手を伸ばしたら その手をパチンっと叩かれた。

   
   それで ゆんはふくれているのだ。

   じいちゃんはのどを切開して管を入れているので 声が出ない。

   ゆんは カバンからノートとペンを取り出す。

   ”どうして管を抜くの!?” と 大きく書いて じいちゃんにノートをおしつけた。

   じいちゃんが 返事を書く。 ”resistance"

   じいちゃんは 元中学校英語教師。 なにかと ゆんに 英語で挑戦する。

   どうだわかるか という目で ゆんをジロリと見上げた。
   
   「ふんっ これくらいわかるわよ。 あたし 帰るっ」

   実はわからない。 腹が立つ。 ドアを乱暴に閉めて ローカに出る。

   バンッという音に 詰め所の看護婦が顔をのぞかせる。 ゆんをみとめて ニッと笑った。

   ゆんは 首をすくめて舌をだした。 またやっちゃった。 毎回 これだ。

   がんこじじいと その血を受け継いでいるゆん。 

   けんかしては ゆんが大声出したり じいちゃんがナースコールを連打したり・・・。
   
   ゆんは 「病棟名物 ジジ孫げんか」 と おどけてみせ 三階分の階段を一気に駆け下りた。

   病院から外へ出ると 風が冷たく感じる。

   ゆんは まだ体になじんでいない制服のえりもとを 合わせた。

   風に背を押されるまま 近くの神社へ行く。 

   境内に ゆんとじいちゃんが ”トトロの木”と名づけた大木がある。

   大木には 大きなうろが開いている。 ゆんは 木に腕を回し おでこをつけた。

   「早く 人工呼吸器が はずせますように」

   それから あたりを見回し 誰もいないことを確かめ うろの中へ入った。

   ひざを抱え 丸くなる。 だいぶ狭くなったけれど 居心地のよい ゆんの隠れ家。

   ほの暗く しめった木の匂い。 目を閉じると 静かな木の呼吸がゆんを包んだ。

   ゆんは 怖かった。 じいちゃんは なぜ管を抜く? 死にたいから?

   起き上がることも 食べることもできず 痛くて苦しい三ヶ月。

   なのに もっとがんばれって言うゆんは ひどい? ゆんは じいちゃんを苦しめている?

                              
 
    どのくらいたったか 大きく息を吐き出し 目を開けた。 ほおをぬぐう。

   カバンから英和辞典を 引っぱり出す。

   ”resistance 抵抗・反抗”  

   抵抗? 何に? 

   最初に管を引き抜いたのは・・・

   呼吸器を嫌がるじいちゃんをおとなしくさせようと 眠り薬を投薬した後。

   もうろうとしながら管を引き抜き ガッツポーズをしてみせたっけ。

   その次は じいちゃんに何の説明もなく 呼吸器の設定を変えた時。

   それから・・・。 

   ゆんの中で ゆっくり ほどけるものがある。

   治療といいながら じいちゃんの意志は何度も無視されてきた。

   声を失ったじいちゃんは 管を抜くことで 抗議してたんだ。

   命がけの resistance めちゃくちゃだけど なんて じいちゃんらしい。

   管を にぎる じいちゃん。 

   にぎっているのは じいちゃん自身の生死の権利。 これはオレの命だ と。

 
   ゆんは うろから出ると もう一度木に抱きついた。 そして 病院へと歩き出した。

   病室のドアを開け 「ハーイ」 と 右手をあげる。 

   じいちゃんも片手をあげ あいさつをかえす。

   ベッドが 四十度ほどの角度で起こしてある。

   じいちゃんは ベッドに背をもたせかけ 座っている。

   ゆんは 三歩で歩み寄ると 何本かの管ごと じいちゃんを抱きしめた。

   押さえつけられた管がはずれ ピーピーッと 警告音が鳴り響いた。

   ゆんの心臓は はねあがったけれど 慣れっこの看護婦は笑顔であらわれ

   あわてずさわがず 管を消毒して再挿入した。

   「今日はこれで三度目ね」 という看護婦の言葉に

   じいちゃんが ニヤリと ゆんを見た。




                                             おわり

                                        そして 夏の空 へ
     

  

                          


    
   
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「おじいちゃんとぼく」
- 2009/05/09(Sat) -
(神戸新聞文芸児童文学部門 入選 2002年)   


  おじいちゃんとぼく 釣りに出かけた。 おじいちゃんが 釣り糸を海に投げ込みながら言った。

  「こうやって 海とつながるんだ」

  ぼくも釣り糸を投げ込み 海とつながる。 群青色の海に 赤い浮きがポコリと顔を出す。

  おじいちゃんの浮きとぼくの浮き 波にゆられてプカプカ。 

  見つめるうちに ぼくの体もプカプカ。 おじいちゃんの体もプカプカ。

  波がダボンと打ち寄せる。 ザザンと引く。 ぼくの心臓が ダボン ザザンと響きだす。

  「おじいちゃんの心臓も ダボン ザザンってなってる?」

  「ああ ダボン ザザンだ」

  ぼくの浮きが沈んだ。 糸を引き上げたら えさがなくなっていた。 ぼくは言った。

  「海って おもしろいね」

  おじいちゃんが答えた。

  「うん 海はいい」


  おじいちゃんとぼく 山の畑へ出かけた。 おじいちゃんは ナスをハサミで切り取る。

  ぼくは トマトを両手で包むようにして とる。
  
  「ナスもトマトも つやつやだね」 と ぼく。

  「誰かのほっぺといい勝負だ」 と おじいちゃん。
  
  いちごの苗を植えた。

  「楽しみだね」 と ぼく。

  「楽しいな」 と おじいちゃん。

  汗をいっぱい かいた。 おじいちゃんがみかんを二つ もいだ。 ひとつを ぼくにくれる。

  木かげに並んで座った。 風が吹いた。 木の匂い 土の匂い。

  「山とつながると 気持ちいいな」 と おじいちゃんが言った。

  「山とつながると おいしいね」 と ぼくは みかんを 食べた。

  
  おじいちゃんが 入院した。


  お腹の中に 悪いものができたって。

  悪いところ いっぱい 切り取ったって。

  おじいちゃんがお腹を切った日 ぼくはおじいちゃんに会えなかった。

  次の日 おじいちゃんが眠っている部屋に入った。 

  おじいちゃんの口から管が出ていた。 鼻からも腕からも お腹のあたりからも管が出ている。

  何本もの管で 薬や機械につながれていた。

  おじいちゃんは 目をかたく閉じている。 おでこに 目の周りに 口の横に

  怒った時のしわがある。 おじいちゃん 怒ってる。 こんなものに つながれたから。


  ぼくは一人で海ヘ行った。 ペットボトルに海を くんだ。 

  一人で山へ行った。 木によじ登り 一番おいしそうなみかんを もいだ。

  ペットボトルとみかんをかかえて 病院まで走った。 

  眠っているおじいちゃんの手を開いて ペットボトルの海をそそいだ。

  海をくんだはずなのに ペットボトルの中は にごった水。

  波の音も聞こえない。 水は 指の隙間から床へと流れ落ちた。 

  みかんの皮をむいて ひとふさ ひとふさ おじいちゃんの手のひらにのせた。

  おじいちゃんは 怒った顔で目を閉じたまま。 

  ひとふさ 食べてみた。 すっぱい。 みかんは バラバラと こぼれ散った。

   
  ママが来て みかんを拾い集め ぬれた床を拭いた。

  「どうして こんなこと するの?」 と ママは聞いた。

  「おじいちゃんを 好きなものとつないであげるの。 そしたら おじいちゃん 元気になるよ」

  ママは

  「ばかね」 って言った。

  「おじいちゃんの一番好きなもの ここにあるじゃない」

  そう言って 暖かな手で ぼくの髪を くしゃくしゃにした。


  おじいちゃんの手のひらに ぼくの手をのせた。

  おじいちゃんとぼく つながった。

  おじいちゃんの手 熱くて トクトクとリズムを刻む。

  ぼくの手も 熱くなって トクトク。

  おじいちゃんとぼく 体の中で 同じ音楽が響き始めた。

  おじいちゃんの手が ぼくの手を きゅっと にぎった。


                                              おわり

                                         そして resistance へ 続く 

                                       
                          
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神戸新聞文芸児童文学年間賞作 2
- 2008/03/25(Tue) -

  「猫の夜」

  それは 冬の満月夜。部屋でヌクヌクと眠るぼくの頭を 冷たい風がなでた。
  
  おでこに ひんやりとしたものが触れる。何? ぼくは いやいや目を開けた。

  そこに 緑に輝く二つの目 月色に光るひげ―チビがいた。チビはのら猫 ぼくの友達。
 
  窓が開いて 身震いするような月光が部屋を満たしている。

  「チビが 窓開けたの?」と、ぼくは寝ぼけまなこ。

  チビはフンッと鼻を鳴らした。

  「その呼び名は おれにふさわしくない」

  「すごいっ チビ 話せるの?」

  チビはフフンとまた鼻を鳴らし ひげをふる。ひげ先から光のしずくがこぼれ落ちる。
 
  「今夜は満月の力がひげに流れ込む。怖いものなしさ。早く行こうぜ」

   と 氷のように冷たい前足で ぼくのおでこをヒタヒタ叩いた。

  「行くって どこへ?」
  
  「約束を果たしにさ」

  チビは窓わくに飛び上がると 長く黒い尻尾をしならせた。

  「特別に 尻尾につかまらせてやるよ」

  約束? ぼくは半分寝ぼけたまま布団から這い出し チビの尻尾をにぎった。

  次の瞬間 チビは窓から夜空へ 飛び出した。


  凍る冬空 こうこうと冴える満月。 ひげをピカピカ光らせ 猫が夜空を翔ける。
  
  その尻尾にぶらさがる パジャマ姿のぼく。 寒いっ。

  チビは ぼくの通う小学校の裏庭に着地した。

  そこは 校舎裏 楠木の下 ぼくの涙場。 チビと初めて会った場所だ。

  あの日 ぼくは木の根元に 緑目の子猫はずっと上の枝にいた。
 
  「そこ 気持ちよさそうだね 登り方教えてよ 給食のおかずあげるから」

  ぼくは そう言った。

  子猫は 知らんぷりして 耳の後をかいていたっけ。


  木登りのことなんて 忘れてた。

  毎日 給食のおかずをあげたのは 子猫を大好きになったから。
 
  チビが 木を見上げて言った。

  「コツは とっかかりさ。 

  初めのとっかかり 次のとっかかり そうやって 道をつくる。」

  チビと並んで 木を見上げた。

  「ぼくには無理だよ。」

  「そういう言い訳は じゃま。 砂をかけて埋めちまえ。
 
  とっかかりのひとつも みつけられないわけ?」

  と チビが鼻にしわを寄せる。

  ムッとしたぼくは 幹のこぶに足をのせ枝をつかみ 体を持ちあげた。

  「フン もひとつくらい みつけられるだろ? 

  ほら次のとっかかりも簡単 おまけにもうひとつ。なんてことないだろ?」 

  
  チビが言うほど 簡単じゃなかった。 けれど ぼくは登った。

  木の上から眺める学校は いつもとまるで違った。

  気に入らないあだ名 乱暴なクラスメイト 苦手なおかず・・・

  そんなものが小さくなり どうでもよくなった。

  体も心も ぽかぽかした。

  登る時につくった手足のすり傷さえ 気持ちいい。

  となりの枝では チビが身づくろい。

  ぼくが落下しそうになるたび えり首をくわえてくれたんだ。

  チビは大きく のびをすると

  「じゃあな 月が消える前に旅立つよ」

  「え? どうして? どこへ?」

  「おれにふさわしい名を 探すんだ。 この町は旅の途中さ」

  「名前なら ぼくが考えてあげる」

  「おれが おれでいるための名だ。 おれにしか みつけられない。」

  チビはきちんと座ると 緑の目で 僕の目をのぞいた。

  「おまえは 何を求めて 明日を迎える?」

  ぼくは 答えられなかった。 かわりに こう言った。

  「チビがいなくなると さみしい」

  「別れは 再会の約束さ。 

   いつか おれは尻尾をピンと立てて おまえに会いに来る。
 
   おまえに おれの名を告げる。
 
   おまえは その名をかみしめ うなずくんだ。 ああ わくわくするぜ」

  ぼくは 涙をこらえた。チビが顔をつき出し

  「おれのひげ 一本やるよ」

  「抜いていいの? 痛くない? 」

  「なんてことないさ」

  できるだけ そっと抜いたけれど 痛そうだった。 チビは 顔を洗って ごまかした。

  「猫のひげには 勇気がつまってるんだぜ」

  そう言うと チビは再び 夜空へと跳躍した。


  あいつは 旅に出た。 ぼくは この町で明日を迎える。
  
  いつか ぼくは胸を張って あいつと再会する。
  
  そのためには 試練も乗り越えよう。
  
  そう 例えば 今 目の前の試練。
  
  ぼくは 木の上。
  
  一人で 降りなくてはならない。
  
  すり傷だらけの手のひらで あいつの勇気が一本 光を放っている。

                                                  完


                                2002   神戸新聞文芸児童文学年間賞
                                       

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神戸新聞文芸児童文学年間賞受賞作 1 (2000年)
- 2008/03/25(Tue) -
   「ガシャ・ポン」


 手の中に 百円玉二枚。 もらったばかりの今月分のおこずかい。  二年生だから二百円。

 使い道はもう決まっている。  ぼくは 百円玉二枚をにぎりしめ 橋まで走った。

 橋から カミ山が見える。 橋の下を流れるのは カクシ川。

 今朝 橋のたもとに ガシャポンをみつけた。

 ふつう ガシャポンは スーパーやおもちゃ屋の前に 目立つように並んでいる。

 人気キャラクターの絵が貼ってあって ゴム人形やキーホルダーの入ったカプセルがつまっている。

 ところが 橋のガシャポンは たもとに隠れるようにひっそり ぽつんと立っていた。

 何の絵も 字もない。 グリーンの半透明なカプセルが 数個入っているだけ。

 ぼくは 百円玉を一枚 コイン投入口へ入れた。 コトン。

 ハンドルを回すと ガシャッと手ごたえがあって ポン とカプセルが転がり出てきた。

 どういう仕掛けだろう カプセルの中で水がうずまいている。

 カプセルに小さく文字が刻まれている。 <カッパ> だって。 カッパのゴム人形? 

 本物のカッパだったりして。

 カプセルを開ける時はいつだって わくわくする。 ぼくは 指先に力をいれ カプセルを開けた。
     
 バッシャーン。  ぼくは 水のうずに 飲み込まれた。

 水の中で ぐるぐる回されて 上も下も わからない。
 
 もみくちゃにされて 流される。 どこかで 笑い声がした。

 ぼくは笑い声のほうへと 必死で 手足をばたつかせた。

 やっとの思いで 水面から顔を出した。 ぼくは 川の中にいた。 足が 川底についた。

 川の両側からせりだす樹々の枝が 川に緑の影を落としている。
     
 そして ほくの目の前で

  「ケカッ ケカッ カッパの川流れ ケカッ」

 と 笑っていたのは・・・。

 全身緑色の・・・頭の真ん中にある泉はほうれん草色 目の色もほうれん草
         
 水かきのある手とポコリと突き出したお腹はねりわさび色 
      
 逆おうぎ形につきでた口元はきゅうり色・・・・の おやじガッパが いた。

 おやじガッパのうしろから そら豆色のひとみが のぞいた。 子ガッパだ。
 
 その子の泉はそら豆色 泉をとりまくうぶ毛は まるで春きゃべつの千切り 
       
 肌は 皮をむいたマスカットの実みたいに キラキラしている。

 ちょんと とがった口元が すごくキュートだ。

 おやじガッパが ぼくに 聞いた。

  「おまえ どっから 流れてきたんや?」

 えーっと どこだっけ?

  「おまえ 名前は?」

 うーんと なんだっけ?

 首をかしげ 腕組みしたぼくの腕はきゅうり色 指には水かき。
                    
 澄んだ川の中で 水かきのついたぼくの足が もぞもぞしている。

 なーんだ ぼくも カッパだったんだ。
   
  「あたしが 名前 つけてあげる」

 子ガッパが そら豆色のひとみをクルンと回して言った。

  「『雨あがり』や。 あんたの泉の色 雨あがりのお山と おんなじ色」

 ぼくは頭の上に手をのばした。 指先に泉が触れる。

  「ぼくの目の色 どんな?」

 子ガッパは  クコッ クコッ と笑って言った。

  「泉と目玉は つながってるやん」

 雨あがり色の 泉とひとみ。 うれしくなった。

  「あたしは 『若葉』。 父ちゃんは 『山ふところ』や」

 若葉や山ふところと いい仲間になれそうで ますます うれしくなった。

 ぼくは 水かきのついた手で バチャバチャと 川面を叩いた。

 若葉と山ふところも バチャバチャと ぼくの喜びに答えてくれた。
 
 ぼくは 若葉 山ふところとともに 川で暮らしはじめた。

 川には サワガニやヤマメ イワナがいた。 川辺には キツネやたぬきがやって来た。 

 川下から 人間が来ることも あった。

   「神山の 山ふところよーぉ 若葉よー うちの子がやけどしたんやぁ」

 そんな声が 川下からのぼってくると

 山ふところと若葉は 川辺の樹や草から何枚かの葉を千切り 束ねて 流した。

 山ふところが 山を震わせ叫ぶ。

   「カッパの薬 やけどにも 傷にも しもやけにも 効くぞーお。 すりつぶして ぬれぇ」

 少しして ほっとした人の声が 聞こえた。

   「おおきによー。 きゅうりとお酒 供えとくよって 食べてよー 飲んでよー」
         
 人の子らが 川づたいに登って来ることもあった。

   「山ふところー 若葉ー きゅうりとイワナ 交換しようやぁ」

 若葉と山ふところが川にもぐった と思ったら もう両手にイワナをつかんでいる。

 ぼくも あわてて イワナを追いかける。 捕り方は 若葉に 教わった。
        
 きゅうりをパリリとかみながら 山ふところが 

   「ついでに すもうとってけ」

 子らを さそった。

   「そうや すもう すもう」 と 若葉が声をあげる。

 すもう と聞いて ぼくの体がムズムズとする。

   「とってもええけど 仏さんに供えためし 食うてからや」と 人の子。

   「そんなん 食わんでも すもうはとれる」 と 山ふところ。

   「あかん あかん 尻っこぬかれたない」

   「きゅうり うまいさか 尻は抜かん」 と若葉。

   「ほんでも 負けんのもくやしいさか やっぱり食うてくる。 土俵で待っといてや。」

  と 人の子らはイワナを抱えて 走っていった。

  少し川下の中洲土俵で(りっぱな土俵なんだ!) ぼくらはすもうをとった。

  山ふところは ダントツに強く ぼくは どんじりだった。 

  人の子らも 中々やるもんだ。
      
  すもうを終え 人の子らも帰り ぼくら三匹は 川面に手足を伸ばし 浮かんだ。

  木漏れ日が 心地よい。 山ふところが あくびまじりに 言った。

   「澄んだ水 樹の匂い うまいきゅうりに すもう仲間。 カッパ天国や」

   ほんと ぼくは 世界一 幸せなカッパだ。

   そんなふうに 夏を過ごした。

   秋が来た。 
           
   ある朝 若葉が言った。

    「今夜 満月やし 川のはじまりまで 行かへん?」

    「うん 行ってみたい」

   川のはじまりへ行くには小さな滝を二つほど登る と 若葉が言う。

    「満月あびて滝登りした二匹は ずうっと仲良しでいられるんやって」

   早口で言い添えると 小さな水しぶきをあげ 泳いでいってしまった。

   ぼくは ぽおっと 若葉の残した波紋に みとれた。 と そのとき 山ガラスが川を横切った。 

   くちばしに きらりと銀色に輝くものをくわえている。

   月の光に似ている。 月夜にぴったりのおくりもの。 若葉にあげたい。

   カラスは 山中へと もどっていく。  ぼくは カッパだ。 水から離れるのが 怖い。 

   長時間 水から離れると とんでもないことが起きる と 山ふところから 聞いたことがある。

   カラスが遠ざかる。 いそげば大丈夫。 走って行って 走って帰ってこよう。
    
   ぼくは 陸に上がった。  

   ぼくは 土の上を走り出した。

   カッパの体は 走るには 向いていない。 すぐ 息苦しくなった。

   カラスは 木の上の巣に光るものを置いて また 飛び立って行った。

   カッパは 木登りにも 向いていない。

   水中で あれほど自由に動けることがうそみたいに 体が重い。

   力をふりしぼり カラスの巣にたどりついた。
   
   巣の中に 小さな月が眠っていた。

   手のひらにのせると目を覚まし きらんと 光った。

   小さな月には 花の絵が浮き出ている。

   裏を返すと 100 という模様。 

   これ なんだろう どこかで見たことのあるような。 この意味を知っていたような・・・。

   ぼくは おかしな気分になって 木の枝にしがみついたまま 手のひらの月をみつめていた。
       
   キーン。 耳鳴りがした。  しまった 泉が乾いた。  頭が 痛い。

   ぼくは 月をにぎりしめ 木をすべり降りようとした。

   にぎりしめた手の水かきに痛みが走る。 水かきが割れた。

   木の皮にこすれる手足の水かきも ひび割れ ぼろぼろと落ちる。

   パリンッ。

   泉の割れる音が 頭の中に響いた。 目の前が真っ暗になった。

   木から体が離れ 落ちて行く。  ぼくは 小さな月を強くにぎった。

   若葉に・・・あげる・・・ん・・・だ・・・。



   痛ってぇ。  しりもちをついた。 目を開けると 橋の上だった。

    「ケンタ あぶないやろ!」

   同級生が 脇を自転車で走り抜けて行った。

   ぼくは のろのろと 立ち上がる。 こんなところで 何をやっていたんだろう。

   同級生が呼んだとおり ぼくの名は ケンタ。 けれど・・・胸の奥がざわめく。

   なにか もうひとつ とてもきれいで 大切な名前を持っていたような。

   右手をにぎりしめていることに 気がついた。 開けば 百円玉。

   思いだした。 ガシャポンをしに来たんだった。 

   あれ? 二百円持っていたはずなのに 落としたんだろうか。

   ぼくは 橋の上に目を走らせる。 らんかんから 川をのぞいた。

   川はにごっていて 百円玉が落ちていたってわかりゃしない。

   にごった川をみたら 胸がキュンとした。 どうしてだろう 泣きたくなった。

   目をあげたら カミ山が見えた。 ふいに 雨上がりの山が見たい と 思った。

     
   百円玉を探すのは あきらめた。

   残った百円玉を たもとのかげのガシャポンに 入れた。

   ハンドルを回す。 ガシャッ。 カプセルがポンと 出た。 半透明のグリーンのカプセル。

   ぼくは カプセルを持つ指に 力を入れた。

   わずかに開いたカプセルのすきまから みどりの風が吹きつけた時

   カプセルの小さな文字に気がついた。

    <てんぐ>

   次の瞬間 木の葉まじりの竜巻が ぼくを 空高く 舞い上げた。



                                               完

                            2000年  神戸新聞文芸児童文学年間賞受賞作  



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「鬼羅の歌」
- 2008/03/25(Tue) -
    歌声。  歌が聞こえる。  この街にふく風が 歌っている。

    ここは 山をけずって できた街。 

    百年前は山だった。 五百年前は深い山 千年前は 深い深い山だった。

    ここが 深い深い山だった頃の話。

    鬼神が 山の精気を吸うためにやってきて 樹々の間を 駆け抜けた。

    鬼神が通り過ぎた後に 小さな竜巻が 起こった。 落ち葉や木の実を 巻き上げて クルクルおどる。

    竜巻がおさまった時 そこに 鬼の子がいた。
  
    鬼羅は こうして 生まれた。

    
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